<夏バテの概要>
連日記録的な猛暑日が続く現代の夏
夏バテの漢方相談は年々増加傾向にあります。
夏バテは身体のだるさや食欲不振が主な症状です。
暑さにより体力を消耗し、大量の発汗によって陰(身体の潤い)が不足する、
というのが夏バテの直接的な原因です。
また副次的な要因として、冷たいものの飲食が増え、内臓が冷えることで消化器系機能の低下や疲労倦怠感につながるほか、非常に暑い屋外と冷房がきいた室内を行き来することで、自律神経が乱れ、睡眠の質が低下するなどの影響も考えられます。
<夏バテの漢方的な考え>
江戸時代には暑気あたりという言葉が残されており、それ以前からも暑さによる諸症状として歴代の医学書に記載があります。一方で現代の我々がイメージするような食欲不振・倦怠感というよりは、非常に激しい下痢や嘔吐、急激な脱水によるショック状態など重篤なものが多く記述されています。主には高温時期における食品の衛生的な問題なども背景にあったかと思われます。
一方で上述した通り、暑さだけが原因ではなく、冷たいものの飲食によって内臓を冷やしたり、屋外・屋内の寒暖差によって自律神経が乱れるというのは、昔の時代には無かった要因です。大昔に記述された漢方の文献を読みながら、漢方相談を受けて感じるのは、現代の夏バテは歴代の漢方医によって認識されていたものよりも重篤性は減ったが、より複雑で慢性化したものが多いということです。従って、伝統的な方法を重んじるのは何よりも重要ですが、数百年前の知識・経験だけで戦うには片手落ちであり、現代の環境に合わせて伝統医学の知恵を再解釈し実践するのが最良の方法であると日々感じています。
〈夏バテの代表処方 麦味参と清暑益気湯の使い分け〉
一言に夏バテといっても、メインとなる症状は人によって異なります。漢方の弁証論治という考えに基づいて、それぞれの人の体質に合った漢方薬を用いるのが原則ですが、夏バテという症状に関しては最も頻用される2大処方として麦味参と清暑益気湯があります。
麦味参(処方名:生脈散)は人参・五味子・麦門冬の3種類の生薬から構成されます。
出典は補中益気湯で有名な李東垣の『内外傷弁惑論』であり、
気を補う最も強力な生薬である人参を中心に、陰を補う麦門冬、収斂によって汗などの流出を抑制する五味子が配合されています。
疲労回復という点において、日本国内で使用できる漢方処方の中でもトップクラスの力を有し、夏バテだけでなく一年を通して疲労症状全般にとても有効な漢方薬です。
清暑益気湯は複数の出典がありますが、日本で使われているものは明代の中医師、張三錫によって書かれた『医学六要』に由来する処方です。
処方構成としては
黄耆・人参・白朮・陳皮・当帰・麦門冬 五味子・黄柏・甘草の9種類の生薬から構成されています。
処方中に人参・五味子・麦門冬の3つ、すなわち麦味参を含んでいます。
加えて健脾利湿の白朮や陳皮を配合し、陰血を補う当帰、全体の温性を和らげかつ陰分を消耗しない黄拍が加えられています。
一見すると麦味参の上位互換のように思えますが、漢方薬の処方構成というのはそう単純でもありません。一般的に薬味の数が増えれば、適応する「証」も増えますが、薬効の切れ味というのはマイルドになる傾向にあります。麦味参は人参・麦門冬・五味子という3つの生薬のみで構成され、処方の目的として気を補い陰を養うという点に特化しています。
従って、服用後の即効性を期待するのであれば麦味参の方が優れているというのが臨床上の所感です。
清暑益気湯の場合、もちろん頓服的に用いるケースもありますが、それよりは慢性的な夏バテの体質改善を目的に、ベースの処方として用いるケースが多いです。
食慾不振がメインであれば清暑益気湯に六君子湯や晶三仙、温胆湯を併用します。
冷たい物の飲食で腹痛・下痢があれば清暑益気湯に適宜、半夏瀉心湯や人参湯を併用する他、冷房にあたり身体が冷えて倦怠感を呈する場合には補中益気湯をベースとすることもあります。
屋外の仕事や部活動など炎天下で過ごす方の場合、上記の慢性的な夏バテよりも気陰の消耗と暑邪の感受が激しい傾向にあります。この場合より強力に気陰を補う麦味参をベースとし、暑熱を冷ます為に白虎加人参湯や竹葉石膏湯などを併用します。
まとめると
麦味参の方が気陰を補う力が強く、疲労回復の即効性に優れる。
清暑益気湯は慢性的な夏バテ症状にベースの処方として使いやすく、
また食欲不振や倦怠感などメインの症状に応じて別の処方と併用するケースが多い。
炎天下で作業して大量の汗を流す方は予防的に麦味参を服用するのがおすすめです。
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